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アボカドの種を植える男 第1話…モニカ・マーガレット


アボカドの種を植える男

2020年5月18日 

 

マルチェは階段を上がる。

一歩一歩と確かめるように階段のステップを登って行く。

足腰がしっかりしていて一段飛びでも階段を登れそうだが、マルチェは一段一段と階段を登って行く。

一階で20段ほどの階段を途中で折り返してまた登って行く。

 

登場人物

マルチェ・ロコンティ…一人暮らしで40代ぐらいの痩身な男

ベラノゴッチ・チャイキン…マルチェの仮の育て親にあたりかつ仕事のあっせん者

モニカ・マーガレット…マルチェの部屋の反対側の住人

 

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  1.  アボカドの種を植える男 序章

 

 

第1話…モニカ・マーガレット

マルチェはこのアパートメントの6階に住んでいる。

それも6階の西側の角部屋だ。

6階だから、階段は120段ほどもある。

6階の部屋は4部屋あるが2部屋は空いている。

空いている2部屋はもう10年近く空いたままになっている。

 

数年前に、向かいの角部屋に引っ越してきた者がいたことさえマルチェにとっては驚きだった。

マルチェはそんな階段を一段一段踏みしめるように登って行く。

が、その足取りは重くはない。

マルチェが5階から6階に向かう階段の踊り場に一人の女がいた。

女は少し息を切らし気味に階段を登ってきたようだった。

 

年の頃なら40代半ばにも見えた。

大きな目は碧眼で青い色をしているのだが、熱したビー玉を水に浸けて細かくひびが入ったかのようなキラキラ光を放つような眼をしている。

また、野性的な目力を有していた。

唇は真っ赤で肌は白い。

髪の毛は黒寄りの栗毛で少しカールし肩に届いている。

 

マルチェは一瞬でそれらの情報を見て取った。

女は少しマルチェの方を振り向いたから目の色まで分かった。

 

女が口を開いた。

「あんた、音もなく階段を上がって来るわね」

 

マルチェは目を細めたが何も答えない。

 

「なあに、わたしと喋るのが嫌なの?」

「わたしはモニカ」

「モニカ・マーガレットよ」

「モニカもマーガレットもどっちらもファーストネームみたいでいいでしょう」

 

「あんた、本当に喋らないのね」

「口が利けないの?」

 「ん…」とモニカが不審そうだが、愛くるしい首を傾げながらマルチェを見下ろす。

 

モニカの髪が傾げた首から垂直に垂れ下がり広がる。階段の踊り場の解放ヶ所から西日がモニカの頭に当たりモニカの顔が黒く沈みがちになって、髪の毛に反射する光が光輪のように光る。

髪に当たる光によって顔が黒く沈んでも、光の屈折率が高そうな碧眼が光を放っていた。

 

マルチェは一瞬懐かしいものを見たような気がして「ああ…」と、思わず声を出した。

 

「なんだ、声は出るんじゃないの」

「そうよねスマホで会話しているのを聴いたことがあるもの、当然だわよね」

「それにしても、あんた、マルチェだったわよね。あんたの向かいの部屋に住んで私もう三年も経つのに、『ああ…』が初めての会話だなんて、おかしくない」

 

モニカは「おかしくない」を、ゆっくりと、一語一語切るように話した。

 

「いや、話すことが無いから」マルチェはそう答えた。声量を落とした低い声だが通った声であった。

 

「じゃ、これで私達はやっと知り合いになれたのね」

「三年も経ってやっと知り合いか…」モニカはふふと笑った。

 

「あんた、フランスパンとワインをいつも買っているのね。わたし、お腹すいちゃった。そのフランスパン少しよこさない」

「そう、赤ワインも飲みたいわ」

 

「マルチェだ、構わないが…」と言ってマルチェはフランスパンを半分に折ろうと左手を動かそうとした。

 

「ちょっと待って、ここでじゃないわ。私の部屋までにいらっしゃい。どうせあんたん家(ち)の前よ」

そう言ってモニカは踊り場からの階段を登って行った。その後ろ姿には有無を言わせない意志力が感じられた。

 

モニカがアパートメントのドアの鍵を開けるその横でマルチェは待っていた。

ガチャと音がしてモニカはドアノブを回して扉を開けた。

部屋に西日が射して黄金色の光が入り込んでいる。

 

「ちょっと入って行きなさいな」モニカがそう言って、マルチェからフランスパンとワインの入った紙袋を取り上げる。

マルチェはあっと思う間もなく紙袋を取られたことに驚いた。

仕方なくモニカの尻についてモニカの部屋に入った。

 

モニカの部屋はマルチェの部屋とまるで鏡写しなだけで同じ作りだった。それはそうだろう同じアパートメントだからな。

 

「そのテーブルの椅子に座りなさい」モニカは命令的口調でマルチェに指示をする。マルチェはそれに逆らうこともなく椅子に腰を下ろした。

 

「ちょうど仕込んで置いたお肉のトマト煮があるのよ。食べごろだからフランスパンとワインで一緒に夕食しましょう」モニカはマルチェの許諾を得ることもなしに、勝手に事を進めている。戸惑いながらもマルチェは椅子に座って待っていた。

 

テーブルにまな板とパン切包丁とワイングラス二つと、パン用の皿などが手際よく並べられて行く。スプーンにホークナイフが置かれた。

 

マルチェはワインを開けていた。

モニカにワインを開けるよう頼まれたからだ。

人にものを頼まれるなんてことは、仕事以外にはありはしないマルチェだったが自然な様になっていた。

マルチェはワインのコルクを鼻もとに持って行ったが、クンクンと臭いをかぐようなわざとらしい真似はしないで単純に香りを確かめていた。

買ってきた赤ワインはいつものワインではなかった。

いつもの赤ワインより少し値が張ったから、どんな熟成か知りたかっただけだ。

マルチェはワイングラスにワインを注ぐ。

 

「さあ、お肉のトマト煮も温まったわ」そう言ってマルチェの前に皿を置く。「それとサラダね」

 

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モニカはいつの間にかつけていたエプロンを外して、マルチェの反対側の椅子に座った。そして両手をテーブルの前に出して手を組み、軽く目を閉じ「今日の食事に感謝いたします」と小さく言った。

 

マルチェはその様子を遠い記憶の中で見たような気がしていた。

 

「さあ、いただきましょう。先ずはあなたと知り合いになれたことに乾杯」と言ってモニカがワイングラスを持ち上げ、ややしてぼっとしているマルチェにも同じようにしてと、促(うなが)し気味に顎で指示した。

 

「おいしいな、これ」マルチェが、スプーンでお肉のトマト煮を食べながらそうぽつりと言った。

 

「美味しいでしょう、あたしの自慢料理なのよ…」

 

「であんた、マルチェは、なにをしている人なの。どう見ても勤め人じゃなさそうだし、遊んでいる風にも見えないけど、ひょっとしてお金持ちで孤独にのんびり暮らしているだけなのかしらあ?」

 

「・・・」

 

「あら、元のむっつりさんに戻っちゃったのね」

「あんた、どこの生まれなの?」

マルチェはそんな質問を無視して肉のトマト煮を口に運んでいる。

「あんた、よっぽどお腹が空いてたのね」

「お代わりは…」

「いや、これで十分だ」とマルチェは肉をホークで崩しながら口に運んでいた。お肉のトマト煮は、口の中で肉がほろほろと崩れて口に留まる時間ももどかしく喉を通って胃の中に入っていく。

そしてワインを飲む。

 

「あんたって、食べることに夢中でわたしには関心無しね」

「あんた、こんないい女が部屋に入れて食事を一緒にしているんだ。あんたって私をなんだと思って見ているの?」

 

「・・・」マルチェは何のことだか分からない風に聞き流す。

 

「あんた、わたしと、したいとか、思ったりしないの」

 

「・・・」

 

「ねえ、わたしが街を歩けば男は言い寄って来るのよ」

 

「…」マルチェはフランスパンをちぎっては口に掘り込み、チーズをその上にほおばる。

 

「呆れた人ね」

 

「そんなんだからあんたは孤独な独り者なのよ」モニカはこのアパートメントに引っ越してきてのおよそ三年間で、マルチェの部屋に誰かが訪ねてきた様子を一度も感じたことがなかった。

 

「・・・」ワイングラスを口に持って行こうとして、マルチェはそれがなぜいけない風に言われるのかが分からなかった。

 

「あんたがこの三年間一度も私に声をかけなかったのは、あんたがただのバカだからなのね」

 

「・・・」マルチェはなんだか、自分を非難している女のことが分からなかなかった。

 

向かいの部屋に誰かが数年前に引っ越してきたことは分かっている。

 

その住人が世の中では美人と言われる方の女だとも、何度か見て知っていた。

 

モニカ・マーガレットと名乗ったこの女が、人畜無害なことだけはマルチェにはすぐに分かった。

 

それだけで他に何もない。

 

いや、美味しいトマト煮の肉を出してくれる女だと認識した。

 

「ねえあんた、わたしの目を見てごらんなさいな」とモニカは悩ましげに言った。

 

マルチェはまじまじとモニカの顔を見て、その碧眼のキラキラ輝く目の中を見つめた。

モニカも見つめ返した。

 

「…」そしてマルチェは千切った残りのフランスパンで、肉のトマト煮の皿に残ったソースをぬぐい取るようにフランスパンで皿を撫でまわし、おもむろにトマト煮のソースが十分にしみ込んだフランスパンを口元に運んだ。

 

「とっても美味しかった」マルチェは言った。続けて「そして、あんたはとびっきりの美人で、頭も良いってことも分かった」

 

「それじゃごちそうになったお礼に今度はどこか食事でも奢るよ。俺は料理はさっぱりだから…」

 

「…だから、あんたはバカなのよ」 モニカが言った。

 

「バカは自分が一番よく知っている」マルチェはそう言って椅子から立ち上がった。

 

「帰るの?」と、モニカが聞く。

 

「帰ってすることがあるんだ」マルチェは答えた。

 

「あんたって、バカなの?」

 

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6階の西の角部屋で、それぞれが住むマルチェとモニカの平凡な、浅い夜が、こうして過ぎて行った。

 

「バカなの」と、一人になったモニカの部屋で、モニカの口からもう一度小さく言葉が落ちた。モニカ・マーガレットは十分に満足げな顔をしていた。

 

◇◇◇◇◇

 

 

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