空からゴミが落ちてきた愛はみえない不時着
2020年6月24日
序章
Netflix で愛の不時着が大人気だったそうです。
Twitter でもそんな話題が多くツイートされていました。
残念ながら私は Netflix 利用していないので、今のところ観られないのですがどんな内容なのか、一度は観てみたいなあと思っています。
愛の不時着は、はいわゆる韓国映画というやつです。
内容的には韓国の財閥の令嬢がパラグライダーに乗って北朝鮮に不時着してしまう設定で物語が始まっているようです。
初期の韓国映画のブームは2003年頃にドラマ冬のソナタが契機となって、中高年のおば様たちに熱心に受け入れられたようですが、今回の韓国映画の特徴は若い人たちにも支持されているところが、これまでの韓国映画と全く違うところです。若い人たちに支持されている韓国映画というのはどのようなものなのか、興味深いところです。
それで静吉は【空からゴミが落ちてきた愛はみえない不時着】なんて茶化したツイートをしたので、ふとこのネタで短編小説を作ったら面白いのではないかと思いました。
ぼ、ぼくもハンググライダーに乗って大富豪の邸宅に不時着したら、大恋愛のドラマに発展するかなあ…
— 静吉 (@i_shizukichi) June 1, 2020
じじいだからゴミが落ちてきたとゴミ回収されて、泣くのが落ちだろうなあ😭
【空からゴミが落ちてきた愛は見えない不時着】なんてタイトルでどうだろう。落ちる時タイムリープで好青年になるとか…
それでは早速創作していきましょう。
※創作短編小説【空からゴミが落ちてきた愛はみえない不時着】は、韓国ドラマの愛の不時着とはなんの関連もない物語です。
登場人物
茂 辺児*1…主人公
茂 実子*2…茂 辺児 の元女房で別れても 茂 姓を名乗っている
空 飛翔*3…パラグライダー指導員で 茂 辺地 を父親のごとく思っている
押 柄樽*4… 空 飛翔 にハングライダーを教えた先生で師匠とも呼ばれる
横 取雄*5…欲望のために深恭子の夫になりたいエゴイストな男
慕 零女*6…横取雄 に惚れていることで横に都合よく使われる女
子 分冶*7…横取雄 の腰巾着でヘタレ男
深 恭子*8…広大な屋敷に住む超財閥の跡取り娘
深 金満*9… 深 恭子 の父親で深コンチェルの総元締めで大金持ち
深 恵美*10…深 金満 の後妻で 深 恭子 の継母
粳 菜世*11…深家の家政婦長で深家の家事全般を取り仕切っている
画 隆二*12… 茂 実子 の父親
画 香露*13 …茂 実子 の母親
画 実子*14… 茂 実子 の結婚前の名前で離婚後も茂性を名乗っている。
Chapter…1
「まあ、なんだなあ、わしも80にもなったらもう思い残すことは少ないんじゃがのう、空」 と 茂 辺児 が 空 飛翔 に向かってそうつぶやく。
「おや、 茂 辺児 さん、なんだか殊勝な言い方ですね。でも、 茂 辺児 さんがこんな喋り方をするときはきっと何か無茶を言ってくるんだよね。怖い怖い」と 空 飛翔 よが返す。
「なあ、 空 飛翔 よ、わしは最後になあ…空を飛んでみたいんじゃ。その、お前ならパラグアイの先生じゃろう、わしぐらい空を飛ばせることは出来るじゃろう」
「それを言うならパラグアイじゃなくてパラグライダーです」
「 茂 辺児 さんはいくつだと思っているんですか、パラグライダーなんて無理に決まってます」
「ダメです」
「おう、そうかパラグライダーというのか。それじゃあいつから飛ぶ練習を教えてくれるんかのう」
「ダメ…って、そんな顔をされた、ぼくは困るじゃないですかあ」
「じゃあ、じゃあ一度だけ私が 茂 辺児 さんを抱いてパラグライダーで飛びますから、それでいいでしょう。いいですか、一度だけですよ」
Chapter…2
「ひょひょひょひょ~っ、空を飛ぶのって気持ちが良いやい。まるで鳶になったみたいだ自由自在にどこへでも行ける」
「聞こえますか 茂 辺児 さん…一人で飛べるようになったからって遠くまで行かないでくださいよ」
「分かってるよ 空 飛翔 よ、ちょっと林の向こうまで行ってくるだけだよ」
「だ、ダメですよ。林の向こうは深コンチェルの所有地です。誰もその上空を飛んではいけないのですよ~、聞こえていますかあ 茂 辺児 さん!」
「うるさいやつだなあ 空 飛翔 は…えい、マイクを切ってやれ」 茂 辺児 はヘッドセットのマイクを切ろうと右側の操縦桿から手を離したところに、右から突風が吹いてきた。
茂辺地のパラグライダーは突風を受けて疾走し、パラグライダーは右上がりとなって突風を受けくるくる回転しながら林の向こうに飛んでいってしまった。
「も、 茂 辺児 さ~ん」 空 飛翔 からの叫び声がヘッドセットから聞こえてきたが、あまりな突風を受けてくるくる回るパラグライダーは、みるみる小さくなって 空 飛翔 の声も届かなくなった。
Chapter…3
「ズザザザ、シャシャシャシャ、ドスン!」と大きな音がした。
髪はショートボブで、くりっとした深い目に、くっきりとした唇から「あら、何事かしら」と言葉が漏れた。
その言葉はおっとりとしてとても優雅だった。
「お嬢様、空から大きななにか。大きな布のようなゴミが落ちてきたようです。ただいま下僕たちが現場に向かっておりますのですぐに片付けてくれるでしょう」と長年勤めている家政婦長が告げた。
「あら、空から大きな布ゴミが…なのね」
「ふふ、おもしろそう」
「行ってみたいわ」
「ダメでございます」家政婦長が止めるように言う。
「あら、だって、ここのお空には飛行機も飛ばないからつまらないのよ。たまにヘリコプターが来たかと思えばパパだもの、決めた、あたし空から落ちがゴミを見に行くわ、だって面白そうじゃない」
「お嬢様、ダメです」
「 粳 菜世 が何を言ったってあたし行っちゃうわよ」
「止められるものなら止めて御覧なさいな」
「お母様に言いつけますよ~」と、 粳 菜世 はまた始まったかと言うような顔をして 深 恭子 を見つめた。こうなると言うことは聞かないので家政婦長は 深 恭子 の後を付いて行くしか無かった。付いて行かないで何かあったらそれこそ大変なことになる。
Chapter…4
「あらっ」 深 恭子 は思わず声を出した。
パラシュートのような布切れから出てきたのは年頃は20代なかばで面長に切れ長の目と細い唇も凛々しい鼻筋の通ったスラリとした美男子だった。その割には着ている服はなんだかちぐはぐで爺臭い感じがする。
「きっと名のある俳優さんだわ」 深 恭子 はそう思った。と、同時に一目惚れしてしまったようだ。思わぬ出会いというのは恋のマジックそのものである。
「空から落ちてきたのはゴミじゃなくて、私を迎えに来た王子様だわ」 深 恭子 は、多分私はこの人と出会うために産まれたんだわ。きっと、この人と結ばれるのだと思いこんでしまった。数奇な出会いは勘違いと思い違いをそれが当然だと思い込ませる効果がある。
「いやあ、わしが悪かった。飛んで成らねえところを飛んでしまってなあ」と 茂 辺児 は集まってくる人に言い訳をしていた。何しろ 空 飛翔 から深コンチェルの上空だけは飛ぶなときつく言われていた。昔、深コンチェルの上空をパラグライドし者がライフルで撃ち殺されたとか、そんな噂話さえ教えてくれた場所である。その深コンチェルに落ちてしまったのだ。
「失礼ですが、あなた様のお名前は…」 深 恭子 が空から落ちてきた男に尋ねた。
「わし?」
「わし、は 茂 辺児 だ。わしが悪いんじゃない、パラグライダーで空をセイリングしていたら、突風に煽られて錐揉み状態となって巻き上げられて、ここまで連れてこられて落ちたのだ」
「幸い、あの木にパラフォイルが絡まって衝撃を吸収してくれたみたいで、わしは傷一つないよ。うん元気なもんだ」そう言って 茂 辺児 は屈伸運動をしてみせた。
「あれ、体が随分と軽いなあ」
「パラグライダーの練習で少し体がしまったからかな…」
「いけませんわ」と 深 恭子 が叫んだ。
「右の額の横から血が出ていますわお手当をしないといけません。付いておいでなさい」そう言うと 茂 辺児 の右手を取ってお屋敷の方に歩き出した。
「お、お嬢様あ!」 粳 菜世 がなにか言いたげに声を出す。
下僕たちは空から落ちてきた男のアンバランスな雰囲気に戸惑っていたようだが、お嬢様が男を連れ去る様子を見つつ空から落ちてきた男のパラフォイルやロープなどを片付け始めていた。
「 茂 辺児 さん、だいじょうぶですか」ヘッドセットから 空 飛翔 の声がかすかに聞こえてくる。多分遠すぎて電波が届きにくいのだろう。
「おう、大丈夫だ!」と 茂 辺児 は答えたが、電波が届いたどうかはわからない。
「大丈夫じゃありません。きれいなお顔に傷が残ったらどうするのです」と 茂 辺児 の
右手を取っている 深 恭子 が 茂 辺児 を見つめて怒ったように言う。
「可愛い娘だなあ、俺が50も若ければ放っては置かないけど、それにしても深コンチェルのご令嬢じゃあ俺がいくら若いときはよくモテたと言っても今じゃ80の爺で、本当に棺桶に片足を入れてその棺桶を引きずりながら歩いているようなもんだからな」
「こんな爺に、それにしても優しい娘だことだ」氏よりも育ちと言うけど、育ちが良いとからこんなにも純朴かつ純真なんだろうなあと思うしか無かった。
茂 辺児 は深コンチェルのご令嬢と思われる娘が俺の手を握り引っ張っている手を見た。
「えっ」思わず声が出たが、その後は「俺の手が、手が…つるつるしている。爺の手じゃないぞ?」なんだどうしたんだ、と心のなかで叫んでいた。
Chapter…5
「さあ、 茂 辺児 様、これで良くってよ」と 深 恭子 が言った。
茂 辺児 はフランス13世紀王朝風の家具調度で設えられた大きな広間の鏡の前で我を失っていた。
「鏡の中のこいつは誰なんだ?」 茂 辺児 は鏡の中の自分に見覚えがなかった。自分じゃないし、歳も自分の年齢からしたら50歳以上も若い。「そんなばかな」と声が出た。
「そんなばかなじゃありません。あたしはこれでも貴賓大学医学部で看護教育を実習しました。安心してください」と 深 恭子 が言う。
茂 辺児 は思った。
こんな傷は手当しなくたってすぐ治るのに大げさだが、俺のそんなバカなはそこじゃない。「俺は一体誰なんだ?」思わず口をついて言葉が出た。
「お可哀想に、空から落ちてきて気が動転なさっているのね、 粳 菜世 この方にベッドを用意して、そうね、お気に入りの楽歩部屋でお支度して差し上げて」 深 恭子 が言った部屋は、ここ深コンチェルの邸宅の中でも、とびっきりのお客にしか提供しない部屋だった。
「バスをつかって汗を流しとりあえず少しベッドで横になって少しお休みなさいな、 茂 辺児 様」に続けて「お夕食は七時からですから、私が呼びに参りますわ。お芝居でもなさっていたのでしょうか、お召し物も新しいものを用意いたしますので、お芝居の衣服はお着替えなさってくださいね」と 深 恭子 ニッコリと満面の微笑みで言ってドアを閉めた。
「分からん、分からんぞ」 茂 辺児 は頭をかきむしった。頭をかきむしって横を見るとバスルームがある。
その時バタバタと羽音がした。
ヘリコプターでも着いたのか、あるいは飛んでいったのかと 茂 辺児 はそれほど気にしなかった。
「風呂に入って自分の体を見てみよう」
「顔も違うし、それに、なんでこんなに肌がつるつるなんだ」
バスを使って 茂 辺児 は自分の体に起きた変化を知った。
頭の中の俺は間違いなく俺だけど、若返っていた。
顔も相当なイケメンになっている。
「これじゃ深コンチェルのご令嬢も俺が俳優だと勘違いするのも無理はない。どうせ俳優と言っても誰がどん顔をしているかも知らない深窓のお嬢様なのだろうけどな」
茂 辺児 はここは一つその役者ってやつの役者役をするしか切り抜ける道はないな。じゃないと、深コンチェルの敷地に乱入したってことで撃ち殺されかねないぞ。それに、こんな待遇は処刑する前に油断させているだけかもしれない。
「命に危険があるのかもだ…」
「そうだ、ヘッドセットだ」今となっては外界との繋がりはこのヘッドセットだけだ。 空 飛翔 に連絡をして助けを乞うべきだろう。
Chapter…6
「ザザザー」
ヘッドセットの電源を入れると耳にわずかに雑音が飛び込んできた。
「も、 茂 辺児 さんですか、 空 飛翔 です」声は小さいがなんとか聞こえた。
「おう、 空 飛翔 よか、まずいことが起きちゃったぜ。パラグライダーが風に煽られてキリキリもみしながら上昇気流で上空に舞い上がり、それからストンと地上に落ちちゃった。ん、幸い怪我は…ないな。だが深コンチェルの屋敷に囚われた感じになっているんだ」
「無事なのはよかったです」
「 茂 辺児 さんの元の奥さんの 茂 実子 さんにも、 茂 辺児 さんがパラグライダーしていて行方不明になって、どこかに不時着したみたいだからって伝えておきましたので、 茂 実子 さんも程なくこのパラグライダー練習基地へやってきてくれると思います。そしたら救助隊を結成します」
「それはありがたいがな、さらに別の問題が発生した」
「どんな問題ですか?」と 空 飛翔 が聞いてきた。
「いや、今はその問題はまだいい」 茂 辺児 はこれ以上話をややこしくしたくなかったので、自分が別の人間みたいになって、しかも年齢も青年時代に若返ったなんて言ったら、どこか頭でも打って行かれてしまったと思われかねないとも思ったのだ。だから別人になって若いイケメンの男優みたいになったことは伝えなかった。
「どうやって俺を救出してくれるんだ。深コンチェルの敷地に立ち入ったものは射殺されるらしいじゃないか、俺、そんなの怖いよ。せっかくかっこよく生まれ変わった…いや、そこはなんでもない。独り言だ。だって、俺って爺でもパラグライダーするぐらいだからカッコいいってことが言いたかっただけだ」
「パラグライダーのことですが僕たちがどれだけ 茂 実子 さんに怒られまくったかわかりまか。スマホから唾きが飛んでくるんじゃないぐらい猛烈に怒られましたよ」
「そんなことよりも、あんなに 茂 辺児 さん思いの 茂 実子 さんと、なんで別れちゃったんですか?」
「そんなプライベートなことに割り込むなよ」
「失礼しました。 茂 辺児 さん、 茂 実子 さんがあまりにも 茂 辺児 さんのことを心配するものだから、ついどうして別れたのかって考えたんです。やっぱり年の差で意見が合わなくて別れたのかななんて…すみません」
茂 辺児 は思った。
まさに 空 飛翔 の言うとおりだった。
ひょんなことから 茂 実子 と一緒になったけど、その時俺はもう58歳だった。
茂 実子 はまだ22歳。
なんでか知らないけど、 茂 実子 に 茂 辺児 さん 茂 辺児 さんと言われて気がついたら一緒に生活を始めていた。
そして籍を入れて10年の時が経った。
茂 実子 は32歳になった。
32歳ならまだ若い、 茂 実子 ならやり直せる。
あいつは経済的にも自立しているし頭もよく才覚もいい。それに十人並み以上のきれいな顔立ちをしている。どんどんじじいになる俺の世話をこの先させるには 茂 実子 の人生を俺が奪っているようでいたたまれなくなった。
それで難癖をつけて俺から別れを言いだした。
やつは三日三晩泣き続けた。
泣き終わったら分かれると言ってくれた。
だけど茂姓は変えないわよといった。
それぐらいは勝手にしろと思った。
同じ姓なら 茂 実子 が結婚するときに父親役で同席してやることも出来るなんてことも考えたが、 茂 実子 のやつ一向に誰とも一緒になりゃしない。 空 飛翔 と一緒になるように仕向けたけど、友達以上に離れないとか言われて 空 飛翔 の求婚は断られたと風のうわさで聞いた。
「 もしもし、茂 辺児 さん、聞いていますか?」
「ああ、聞いているよ」
「 茂 辺児 さん声が若くなった感じがしますね。不時着したショックですかね」と 空 飛翔 が嬉しそうな声で聞いてくる。
「なんにしても二日後の夕方5時には、深コンチェル邸へ突撃します。それまでは耐えてください。これでとりあえずの通信は終わります」
その時ドアノブの音がガチャリと回った。
Chapter…7
「あら、 茂 辺児 様、とても素敵ですわ」 深 恭子 は目を大きく見開き、型の良いしっかり下唇を丸くして言った。
そういう 深 恭子 は薄化粧ではあるがフルメイクで目鼻立ちが引き立ち、なんだ古代エジプト時代のクレオパトラもかくあらんやといった感じで妖艶だが、そこは若い娘としての甘さも見えていたし、頬は少し紅潮したかのようにも見えた。
茂 辺児 はシャワーを浴び、シャワーを浴びている最中にドアが開く音がしたので、着替えを差し入れてくれたんだなと分かった。
今まで来ていた服は爺臭くて自分の服であっても着たくないと思った。
それにしても着替えの衣服は俺の体にピッタリと合うし、今まで一度も袖さえも通したことがないほどに高級な設えた衣服であった。
おそらくこの衣服だけで50万円か、あるいはひょっとしたら100万円ぐらいするのかもしれない。
「粳 菜世 はね、人の体を見てその人のぴったりの衣服を選ぶことが出来るんですのよ。急いでいたから出来合いのお洋服でごめんなさいね」
バスの中で聞いたあの羽音はヘリコプターでこの服を買いに行っていたものなのか。
なるほど、俺が不時着したあの現場に 深 恭子 に付き添ってきた女が 粳 菜世 なのだろう。
確かにひと目見て服のサイズが分かるというのは嘘じゃないな。
あてがわれた衣服であったが、鏡に写った 茂 辺児 のその姿はまるでハリウッドのトップスターのごとくに光り輝いていて、これなら 深 恭子 が俺を俳優と思ったのもなるほどと思える。
俺を俳優と思ったぐらいなら、俺をまさか殺すなんてありえないだろう。
深コンチェルの屋敷に入ったものは撃ち殺されるなんて、それは作り話ってやつだろう。
実際空から落ちてきた男にこれだけの接客をしてるなんて、流石に世界の深コンチェルだ。
「お夕食の用意ができございます。ご一緒にどうぞ」と 深 恭子 が言うのだが、そういう割には歩いていこうとしない。
なんだか右手を少し上げたり下げたりしている。
訝しげな顔をして茂辺地が考えると、そうかここは男がエスコートする場面なのだなと理解した。
「えっと、どうするんだっけかな?」そうだ腕を組むんだな。
男の左二の腕に女性が軽く手を添えてともに歩くんだな。
茂 辺児 はひだりうでの肘を少し曲げて体との間に隙間を作った。
そこに 深 恭子 がすっと手差し込んで 茂 辺児 の二の腕を軽く握って、左手で自分のスカートをつまんで軽く会釈をしてあるき出す。
食堂の方へ歩いていくのだが家の中だと言うのに二三分歩かされた。
恐ろしく広い家である。
いや流石にお屋敷だな。
俺のアパートで一分も歩いたら隣のうちのトイレにまでいけちゃうと思った。
それを思うと顔がくすっと微笑んだ。
深 恭子 は 茂 辺児 がニッコリしたと思ってより嬉しそうな顔を見せた。
茂 辺児 は「この令嬢は爺の俺に興味があるのかな。まるで 茂 実子 みたいなやつだなと思った」が、「いや違う、俺はどう見ても20代なかばのそれも超イケメンだと自分でも思う」同世代として俺に好意を寄せているのかもしれない。 茂 辺児 はそう思うことにした。
「イケメンにふさわしい態度でエスコートしなくては」そう思った。
Chapter…8
「みんな聞くんだ」 空 飛翔 は、パラグライダー施設の仲間五、六人を前にし立ち上がって言った。
「 茂 辺児 さんが突風に煽られ、深コンチェルの敷地内に不時着したみたいだ。それで今深コンチェル邸宅にいるそうだ」
「深コンチェルといえば裏ではかなりあくどい事もやっているという話もある」
「例えば深コンチェルの邸宅に入った泥棒がレガナワカ川で浮かんでいたとか。しかもその体には無数の銃痕があったそうだ」
「ほんとかよう」
「泥棒に入ったぐらいで殺されちゃあたまんねえな」
「それって正当防衛を通り越した殺人だろう」
「そうだ。それだけじゃない。伝説のハングライダーでもあり私の師匠でもあった 押 柄樽 先生が、やはり突風に煽られて深コンチェルの敷地内をハングしていてライフルで撃ち落とされたらしく未だに行方不明なんだ」
「 茂 実子 さんが心配し、車でここカネトキ山に向かっているそうだ」
Chapter…9
ヴォ~ンという音と立てて闇の高速道路を照らしながら走る赤い車。
スピードは高速道路の制限速度を二割近く超えているが、決して無謀な運転をしているわけではない。
車は張り付くように高速の路面を舐めて走る。
車は911 Targa 4S で、世界で 992 台しか生産されない限定車。
色はスタンダードの赤。
乗用車というには常識外の車だ。
「茂 辺児 ったら、いつまでも自分が若いと思ってとんでもないことをしてくれるわ。よりによって、深コンチェルの屋敷に落ちるなんてなんてことなの」だから、あいつとは別れなければよかった。
「お願いだ、最後の自由をくれ」なんて言うから根負けしちゃったけど、嫌いで別れたわけじゃない。なんの刷り込みなのか 茂 実子 は 茂 辺児 が好きでたまらなかった。
その年の差30歳。
誰もが籍を入れることに反対した。
茂 実子 は強引の既成事実を作って入籍してしまった。
「できちゃったの」
そう言われては両親も周りの取り巻きも、少し腹が膨らんだかのような 茂 実子 のお腹を見て、いまさらどうにかしろとは言えなかった。
籍を入れての後の結婚式で、腹が大きくなった新婦が登場と誰しも思ったその時に、スリムなままで純白のウェディングドレスで 茂 実子 は式に臨んだのだった。
茂 辺児 と手を取り合う姿は、まるで花嫁の父親が最後の別れを惜しむかの如くの有様だった。
まさか、もう赤ん坊が生まれたのか…誰しもが不思議がった。
「あら、あのときは太っちゃっていたのよ、あはは」って 茂 実子 は笑いながら答えた。食欲旺盛だったから食べ過ぎちゃってたのねなんてしれっという。
実は食べすぎたのでもなく 茂 実子 は画策して腹回りに晒しを少しづつ巻いて、自然とお腹が大きくなったように見せていたのだった。
そんな事があって 茂 辺児 と 茂 実子 は翔んだカップルならぬ「翔んでもないカップル」ってことで 画ファミリーに知れ渡り、アンタチャブルな二人となっていた。
つづく
余録:
『空からゴミが落ちてきた愛はみえない不時着』小説を書いたのは、全くの言葉の綾からです。もう少し簡単にまとめ短編にしたかったのですが、簡単に終わらせることが出来ずに続きとなってしまいました。続編はいつ書くか分かりません。また書き終えたのは六月上旬ですが、公開は未公開記事が多くて伸び伸びになってしまいました。
「アボカドの種を植える男」という小説も1話シリーズで書き出しています。こちらも気が向けば書くスタイルですが、こちらも書き進めたいと思っています。
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