↑音読で楽しんでね 2025年6月4日 水曜日
2025年度 静吉チャンネル プレゼンツだよ😍
宇宙の深淵に浮かぶ青い星、地球。その荒廃した大地に、もへじはただ一人立っていた。彼は「The last man」――最後の男。なぜ自分が、世界の99.99%を占めるはずの屈強な男たちではなく、わずか0.01%の存在である自分が生き残ってしまったのか、その理由が分からなかった。
異変は、異性間の新生児が生まれなくなったことから始まった。
女たちは突如として単為生殖を開始し、まるで聖母マリアのように、自らのみで子を産み落とすようになったのだ。
しかし、そこから生まれた男児は、やがて女へと変態するか、それが叶わぬ場合は死を迎える運命にあった。たとえ幼い頃から生殖能力を持たぬまま、女たちの寵愛を受けても、精巣が成熟する前に女への変態を強いられるか、完全な変態が起こらなければ、心筋梗塞、脳内出血、あるいは自死といった、あらゆる形の死が待ち受けていた。
ごく稀に、完全な女への変態も、成熟したオスとしての機能も果たせない、不完全な変態を遂げる男がいた。
彼らは半分男、半分女のキメラ、「アンドロギュノス」として闇に蠢く存在となった。
女への変態が遅れる男たちは、アンドロギュノスになることを恐れ、死を選んで「再生の高台」から身を投げた。自死を拒んだ者たちは、変態が完了するまで隔離され、不完全変態を起こした場合は直ちに「廃棄」された。
廃棄を免れたアンドロギュノスは、暗き森の奥深く、太陽の光が届かぬ闇に潜んだ。
アンドロギュノスは、残忍なマンイーターとしての動物的本能しか持たず、夜になると人を襲い、肉を貪り、滴る血を啜る、恐るべき怪物と化した。
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ギリシア神話に登場する美少年ヘルマプロディートスは、ヘルメースとアプロディーテーの子として生まれた。
彼は泉の精サルマキスに恋され、水浴びの最中に強引に融合させられ、文字通り一体となった両性具有者と化した。
ゼウスによって再び二人に引き裂かれた彼らが互いを求め合うように、アンドロギュノスもまた人を求める。しかし、彼らの求める行為は、ただ襲い、喰らうという、行き場のない激しい代償行為でしかなかった。
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もへじは、ある恐ろしい可能性に思い至った。
まさか、あの時の遺伝子操作の産物である「ボルバキア」共生細菌が、たった一匹のアカイエカによって瞬く間に全世界に拡散され、人類の営みをここまで変貌させてしまうとは、想像すらしていなかった。
デング熱媒介蚊の駆除のためにボルバキアを感染させる研究。
ボルバキアがオスの生殖を操作し、メスに単為生殖を促す能力を持つとは知っていたが、それが人類の生殖器官を占拠し、コントロールするとは、誰が予測できただろうか。念のために一本だけ打っておいた血清のおかげで、もへじはボルバキアの支配から逃れ、完全変態も不完全変態も起こさずに済んだ。
ボルバキアに生殖活動を操られた女たちは、もへじを仲間に引き入れようと、そのあらわな肉体を投げ出してくる。
それはまさに酒池肉林。
しかし、実りのない行為ほど虚しいものはない。
もへじは未だ成熟した精巣の能力を宿しているが、女たちの卵巣がボルバキアに支配されている以上、生まれてくる子供もまた、ボルバキアの子孫でしかない。
人類は、もへじの死と共に消滅するだろう。人類の存続は、もへじの、まだ余命を留める成熟精巣にかかっている。地球上に残された唯一の男、「The last man」として。
いや、待てよ!あの時、不覚にもアンドロギュノスに襲われたことがあったが、そいつはもへじを噛み裂きもせず、ただぺろぺろと舐め回し、なつくような仕草を見せた。幸い夜明けと共にアンドロギュノスは去っていったが、惜しむように首をもへじに向け、暗闇に消えていった姿が脳裏に蘇る。
もへじはそれを、自分を喰い残したアンドロギュノスの未練だと思っていた。喰いつかれず、引き裂かれなかっただけでも不思議な出来事だったが、あれには意味があったのか…?
まさか、不完全変態のアンドロギュノスの卵巣は、ボルバキアに汚染されていないのか!だとすれば、アンドロギュノスがもへじを舐め回し、懐くような仕草をしたのは、もへじを異性と認識した愛情表現だったのだろうか。
人類を存続させるには、おお、神よ!神よ、あなたは、わたしに、アンドロギュノスと交われというのか…神よ、あなたは何故に、このような試練を私に負わせるのですか…
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とある大学の古代史教室。学生たちの雑談が飛び交う。
「ねえ隆、昨日悦ちゃんとデートしてたんだって」
「いや、デートじゃなくて合コンだよ。だからみんなと一緒だ」
「隆ったらエッチなこと想像して、ズボンにテント張ってたんじゃないの」
「いや、悦ちゃんはそんなに好みじゃないから…」
「ねえ隆、ねえ、古代のギリシャ神話って世界なんか本当なのかなあ。でもギリシャ神話もそうだけど、日本の神話もだけどエロ臭い話ばっかりだよね。強姦にひとの女房を寝取ったりとか、女が美少年を強姦したりとか、人間の欲望を出し過ぎで人間より人間臭いよね」
「まあな、人類なんて何度か消えてまた何度か生まれ来ているって説もあるしさ、相当エッチでエロっぽくなきゃ人類も残んないんじゃないの」
「隆ってホントスケベだよねw」
教授の声が、教室に響き渡る。
「はい、静かに!今日は古代史の中で新しい発見報告がありました。これは人類にかかわる新しい大発見です。その大発見を、皆さんと、共有、したいと思います」
教授は続けた。
「皆さんは『ミトコンドリア・イブ』は当然ご存知ですね。ミトコンドリア・イブは現生人類に最も近い共通女系先祖です」
「その共通女系先祖のミトコンドリア・イブは、どうやら突然に現生人類を生んだのではないかという新事実が分かってきました。
そしてミトコンドリア・イブは、なんと、猿ではなかったのです。ミトコンドリア・イブはその遺伝子情報では、神話世界の魔獣のアンドロギュノスのような姿形をしていたが、子宮だけは現生人類と全く同一であったことが分かったそうなのです。
突然変異的に、人類は生まれるべくして生まれたのかもしれないのです。
神話世界の魔獣のアンドロギュノスが、どうやら我々の先祖ではないかとの報告が、認定提出されたのです…」
教室に、ざわめきが広がった。人類の起源にまつわる、衝撃的な新事実が明かされた瞬間だった。
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この記事は 中高年の星☆爺婆の太陽 静吉がお届けしました😎