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年金受給者と生活保護受給者:なぜ手取り額に逆転現象が起こるのか?
長年真面目に働き、年金保険料を納めてきた高齢者が、いざ年金生活に入ると、手元に残る金額が生活保護受給者よりも少なくなるという「逆転現象」が指摘されることがあります。
この現実は、多くの年金受給者にとって納得しがたく、社会的な不公平感を生んでいます。なぜこのような状況が生まれるのでしょうか?
この問題の背景には、日本の年金制度と生活保護制度、それぞれの目的と役割の違いが深く関わっています。
1.年金制度の仕組みと年金受給者の「手取り」
日本の公的年金制度は、国民年金と厚生年金からなる「二階建て」の仕組みです。現役世代が保険料を納め、その保険料を主な財源として現在の高齢者を支える「賦課方式」を基本としています。
これは、世代間の支え合いによって成り立っている社会保険制度です。
年金受給者が受け取る年金は、原則として「所得」として扱われます。そのため、他の所得と同様に、以下のような税金や社会保険料が差し引かれます。
- 所得税:公的年金等控除を差し引いた後の金額に対して課税されます。
- 住民税:前年の所得に基づいて課税され、年金から特別徴収されます。
- 健康保険料:後期高齢者医療制度の対象となる75歳以上の方は後期高齢者医療保険料、75歳未満の方は国民健康保険料などが課されます。
- 介護保険料:40歳以上全ての方に義務付けられており、65歳以上の方は年金から特別徴収されます。
これらの差し引きがあるため、額面の年金額がそのまま手元に残るわけではありません。特に、年金額が一定以上ある場合や、他に所得がある場合には、これらの負担額も大きくなります。
2.生活保護制度の仕組みと生活保護受給者の「手取り」
一方、生活保護制度は、日本国憲法第25条で保障されている「健康で文化的な最低限度の生活」を保障するための「最後のセーフティネット」です。
病気や高齢、その他の理由で生活に困窮した人々に対し、国が定める「最低生活費」と世帯の収入・資産を比較し、不足する部分を補う形で保護費を支給します。
生活保護の主な特徴は以下の通りです。
- 非課税:生活保護費は所得として扱われないため、所得税や住民税は課されません。
- 医療扶助・介護扶助:医療費や介護費用は原則として全額公費で賄われます。自己負担はありません。
- 住居扶助:家賃が国の定める基準額内であれば、実費が支給されます。
- 教育扶助・生業扶助など:世帯の状況に応じて、様々な種類の扶助が支給されます。
生活保護は、あくまで「最低限度」の生活を保障するものであり、高額な資産(持ち家を含むが、一定の条件で保有が認められる場合もある)や稼働能力がある場合は、それらを活用することが求められます。
3.なぜ「逆転現象」が起こるのか?
このように、年金制度と生活保護制度では、その目的と性質が根本的に異なります。
この違いにより、特に年金受給額が低く、かつ様々な税金や社会保険料が差し引かれることで手取りが減った高齢者の方々が、「年金だけでは生活保護基準よりも手元に残る金額が少ない」と感じる「逆転現象」が生じるのです。
具体的には、単身の高齢者で月額5万円程度の年金を受け取っている場合を考えてみましょう。ここから健康保険料、介護保険料、住民税などが差し引かれると、手元に残る金額はさらに少なくなります。
一方で、生活保護費は、地域にもよりますが、単身世帯で最低生活費が月額10万円程度と設定され、さらに医療費や介護費は公費で賄われるため、実質的な手元資金は年金受給者よりも多くなる可能性が出てきます。
この現象は、長年真面目に保険料を納めてきた人々にとって、社会に対する不公平感や不信感を生み出す大きな要因となっています。
「なぜ、真面目に納めてきた自分が、そうでない人よりも苦しい生活を強いられるのか」という疑問は、当然の感情と言えるでしょう。
4.制度の背景と今後の課題
この問題は、日本の社会保障制度が抱える根深い課題の一つです。
- 高齢化の進展:少子高齢化により、年金制度は現役世代の負担が重くなる構造的な問題を抱えています。
- 年金水準の維持:経済成長が鈍化する中で、年金水準を維持し続けることの難しさがあります。
- 最低生活保障の必要性:どんな状況であっても、最低限の生活を保障することは、国家の基本的な責務です。
政府は、年金制度の持続可能性を高めるための改革(マクロ経済スライドなど)や、低年金者への支援策(年金生活者支援給付金など)を導入していますが、抜本的な解決には至っていません。
この「逆転現象」は、単にどちらの制度が「得か」という比較の問題に留まらず、社会全体で高齢者をどう支えていくか、そして社会保障制度全体をどう持続可能なものにしていくかという、より大きな問いを突きつけています。
5.まとめ
年金受給者が手取り額で生活保護受給者より少なくなるという現象は、年金が「所得」として課税され、社会保険料が差し引かれる一方、生活保護が「最低生活保障」として非課税であるという、制度の目的と性質の違いから生じます。
この問題は、長年保険料を納めてきた人々の間に不公平感を生み出し、社会保障制度全体のあり方を問い直すきっかけとなっています。
高齢化が進む日本において、年金制度の改革と生活保護制度のバランスをいかに図り、すべての国民が安心して暮らせる社会を構築していくかは、私たち社会全体で考え、議論していくべき重要な課題です。
個別の状況で生活に困窮している場合は、まずは自治体の福祉事務所に相談し、利用できる制度を確認することが第一歩となります。
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