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第3話・コンビニプラネット|Hatena Blogger 銀河鉄道の夜


第3話・コンビニプラネット

プシューと音がして昇降口のドアが開く、ジョバンニ号の乗客はそれぞれで下車する。もちろん下車しない乗客も多い。

 

時間感覚はないのだが、地球の日本時間で言うと午前9時30分といったところか。銀河鉄道では絶対相対時間が用いられる。時間の単位は地球時間帯であるが、現時時間からの絶対時間である。

 

ジョバンニ号はこの後2時間後に出発をする。

 

ジョバンニ号の出発に間に合わない場合はそのまま置き去りとなるが、ジョバンニ号の次の停車先まで自力で移動することが出来れば再度乗車は可能である。

 

例えばジョバンニ号よりも高速で動ける小型光速宇宙艇をチャーターするとか、あるいは違法的な海賊船に乗車し、ジョバンニ号襲撃に参加してその間に乗り込むなんて方法も過去にはあったようである。

 

小型宇宙艇をチャーターするには莫大な金額対価が必要である。

 

海賊船に乗るなどは宇宙的アウトローとなってしまうだろうから宇宙的生命を抹消されてしまい、死ぬまでアウトローとして宇宙を漂うしかなくなる。

 

宇宙を漂う海賊船は少なくない。

 

名の知れた有名な宇宙海賊船に【ショーシャンク号】、【ブリーチ号】、【ターミネーター号】、【未知との遭遇号】、【レオン号】、【梟の城号】、【LOSER号】、【注文の多いレストラン号】や【風の又三郎号】に【セロ弾きのゴーシュ号】、【ブリーチ号】、【ゴーイングメリー号】さらには【犬になりたくなかった犬号】等々と、枚挙にいとまがないほどにアウトロー的宇宙戦闘艦が知られているが、広大な宇宙ではこれら宇宙海賊船に遭遇することすらまれである。

 

しかしもっとも有名な海賊船は【厨子王号】であろう。

 

海賊船の下働きからのし上がってきた伝説の船長は、自らを山椒大夫と名乗り「厨子王号」駆っている海賊船である。

 

車掌の桔梗は「ジョバンニ号の発車は絶対相対時間11時30分になります。乗り遅れないようにお戻りください」と、アナウンスをしていた。 

 

ひとりの痩身な男がプラットホームに降り立った。

 

降る光にまぶしそうに顔を上げると、あわてて目を細め、元のうつむき加減で肩の筋肉を緩めきったようなだらんとしたような姿で改札に向かって歩いて行った。

 

ちらっとその様子を目の端に捉えた桔梗はその男を見て、「クリーニング店で付いてくる針金のハンガーを擬人化したみたいで、そう、まるで歩く針金ハンガーかしら」って何となく思った。そして「背が高いな」って感じた。

 

桔梗に「歩く針金ハンガー」と思われた男は、ぎごちなく歩く感じでコンビニプラネットと称される惑星の街中に消えた。

 

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MSワードのクリップアート画像を使用しました。

  

◇◇◇◇◇ 

 

 

「いらっしゃいませ」

 

店のドアを開けると、店員の口々から「いらっしゃいませ」という言葉が飛び込んできた。入ってきた歩く針金ハンガー男の方を見ることもなしに作業をしながら、口角だけを上げてのいらっしゃいませだ。

 

この店は日本のコンビニと同じだ。

 

接客マニュアルも同じようなもののようである。

 

いやマニュアルなんてものはないみたいだ。

 

コンビニプラネットでは接客マニュアル自体が店員の中に沁み込んでいる。コンビニの仕事そのものが体の中に沁み込んでいる状態なので、研修期間なんてものも必要ないほどである。

 

こんなコンビニ人間化した惑星に古倉はいるのかと、針金ハンガー男のような白羽は思った。

 

コンビニ人間化した惑星でもいい、おれはもう一度古倉に会いたい。そして古倉と同棲したいのだ。

 

いやあんな女と同棲するのじゃない同居するのだ。

 

古倉なんかは女ではない。

 

白羽は、ただ、もう一度古倉に飼ってもらいたいのだ。

 

外見上は、男と女が同棲している風を装って社会生活を送れればいいのだ。それだけでムラ社会は社会性のある人間として受け入れてくれるのだ。

 

一人でいるとどこかおかしいのではないかと、ひそひそと変人奇人扱いされて俺を見る目が非難しているのだ。みんなが俺のことを後ろ指で噂してる。ぼっちは生きずらいのだ。

 

ぼっちなおれの居場所は、すでに地球上にはないのだと白羽は思った。

 

白羽は弟にも愛想をつかされ、義妹には悍ましい生物のように思われている。両親はすでにいないので、頼れるのはコンビニ時代に少しのあいだ同居した古倉しかいないのだ。

 

古倉は、言葉は通じなくてもおれの理論を気にしないで聞いてくれる。いや、そもそも聞いていないか、動物の鳴き声ぐらいにしか思っていないのかもしれない。

 

だけどなにがあっても餌を出してくれる。

 

美味しくもない火を通しただけの餌だが、それでも生きているには何とかなる餌である。餌以外にもコンビニの売れ残りの弁当などにもあり付けなくはないのだ。

 

その上に居心地の良いような振る舞いさえ容認してくれるのだ。白羽が見つけた初めての居場所だった。

 

それでも白羽は、餌を与え飼ってくれていた保護者である古倉があまりにもコンビニ化した精神構造の機械人間みたになってしまって、白羽は古倉が容認できなくなって逃げだしてしまった。

 

皮肉なものだ。そんな古倉がコンビニプラネットに移住したと風の噂で聞いて、白羽は元の飼い主を追いかけて、ジョバンニ号に乗って地球を飛び立ちコンビニプラネットまでやって来たのだった。これでは、まるで忠犬ハチ公みたいだなと自分を嘲笑さえしている。

 

既に白羽も五十代半ばとなっていた。

 

白羽を飼育していた古倉も同じく五十代半ばになって、そしてこのコンビニプラネットのどこかで働いているはずだ。

 

コンビニプラネットは、高速道路のサービスエリア的な宇宙のコンビニエンスストアーでもある。コンビニプラネットは海賊船も宇宙公開に必要なものを買い付けに来る。そのためこのコンビニエンスプラネットは宇宙で生き延びるための生活物資全般を取り扱っているので、善人悪人などの区別なく受け入れてもらえる。

 

こんなコンビニプラネットは宇宙の至る所にある。

 

コンビニプラアネットは誰でも受け入れるが、一切の無法は許されない。コンビニプラネットで無法を働けば、それはすなわち宇宙空間では生存不可能な状態になるのだ。そのため暗黙の了解の上で、たとえ親の仇であってもコンビニプラネットでは諍いを起こすことはない。

 

◇◇◇◇◇ 

  

そんなコンビニプラネットのコンビニ店の一つで古倉は働いていた。

 

コンビニの中の細やかとも言える物静かな喧騒が、古倉の感性を豊かにする。レジに静かに並ぶ列が長いほど古倉の胸は高鳴る。

 

そのレジを待つ列の中に白羽がいた。

 

忖度する古倉の目は白羽を既に捉えていた。

 

レジの順番が白羽の番になった時に「レジをお待ちのお客様こちらへどうぞ」と、隣のレジに誘導された白羽は素直にそれに従った。

 

となりのレジにも古倉がいた。

 

白羽にはコンビニプラネットにまで古倉を捜しに来たが、その古倉はコンビニプラネットのコンビニ店員が全て古倉だった。客に対して忖度はするが、それ以上の感情は持ち合わせていない。

 

いや、正確に言うとそれぞれに違うのだが受ける印象が古倉と同じなのだ。どの店員も姿形は違っていても、中身は古倉なのだ。自分というものがなくてコンビニの末端化したロボット同然なのだ。

 

白羽はレジで買った品物を受け取ると、逃げるようにコンビニを出た。その姿を古倉が捉えたが、出た言葉は「ありがとうございました」だ。明るい素敵な声であったが、そこに感情は何もなかった。

 

世界のムラ掟に逆らう生き方は絶対後悔するぞとの捨て台詞を以前に吐いたが、その後悔したのは白羽の方だった。自分の居べき場所は風呂場の浴槽しかなかったと知った。

 

それでも、来るんじゃなかったと思った。

 

ロボットのごとくの古倉がコンビニ店で生き生きとしているのに、生き物としての、人としての人間味は微塵も感じられなかった。

 

古倉は五十代半ばになっているはずなのに、歳さえも取ることを拒んだかのように今も三十代半ばであの時のままだった。

 

そして過ぎ去ったその年さえも、古倉をよりコンビニ人間化させただけだった。

 

もう人間ではない。

 

古倉はコンビニというシステムに組み込まれた末端に過ぎなかった。古倉はそれを良しとした。コンビニのシステムで一日が回る。そのことが自分が存在する証明であった。

 

逃げるようにコンビニを出た白羽は己の現実を再確認させられた。

 

ムラ社会で誰とも馴染めず、当然世間とも馴染めずひとり浮いてしまったかのようなぼっち人間。

 

針金ハンガー男と裏で揶揄されることもあった。今や自分の居場所はどこにもない。

 

唯一居場所があったのは古倉に飼われていた風呂場の中だった。あの風呂場の中が懐かしかった。風呂桶はまるで母の子宮のようであった。風呂桶の中に居ると全てから守られている気がする。

 

風呂桶の中で、タブレットでネットや動画を見て、眠たくなったらそのまま丸まって寝ることが出来た。

 

そうでありながらも、白羽は古倉のような女と性的な関係を持って、そのことが既成事実のようになって社会で生きて行くことには我慢が出来なかった。

 

こんな女とヤルことはしない。オレはそこまで落ちちゃいないんだ。それなのに白羽は古倉に深く依存していたが、やはりぼっち人間だった。いや白羽と同じく古倉もつまるところぼっち人間だったのだろう。

 

ぼっち人間であるからこそ依存するがため飼われる白羽は、庇護されるべき対象として性別的に女であるだけの古倉という生き物に餌付けされて飼育されることを望んだ。これがムラ社会では、勝手に男と女の夫婦認定をされて受け入れられるのだ。

 

そしてよりよく偽装し取り繕うため古倉のコンビニ勤めを止めさせ会社員にしたてようとした、白羽自身が永続的な居場所を作るための画策が仇になり、古倉は自分がよりコンビニの末端機械的ロボットであること望んでコンビニ店員の道を再度選んでしまった。

 

コンビニプラネットに来て古倉に会い、いや古倉というコンビニ人間たちに会い、自分はそんなコンビニ人間にさえ最早必要とされていないことをはっきりと知った。 

 

◇◇◇◇◇ 

 

あの時の古倉と白羽の関係こそが高倉の子宮に宿った自分だったのに、古倉の子宮から自ら生れ落ちて出て行ってしまったことを悔やんだが、いまさら子宮でもあった風呂桶に戻れるはずはなかった。

 

社会に見返させる。女に復讐する。などという中二病的な白羽を置いて、時は過ぎてしまったのだ。

 

白羽は逃げるようにコンビニを出て、自分のID時計を見た。

 

ジョバンニ号の出発までにはまだ時間がある。それでも、どこかにあの時の古倉がいないかと、幾つものコンビニを外から見て回った。

 

幾つのコンビニを回っても古倉はいなかった。

 

いるのは古倉化したコンビニロボットもどきばかりだ。

 

白羽はふと顔を上げて降る光の方を眺めた。コンビニプラネットのプラットホームには各種宇宙船が寄港している。当然海賊船も数隻寄港していた。そんな中に銀河鉄道のジョバンニ号の姿も遠くに見えた。

 

白羽は降る光のまぶしさに目を細めた。

 

そして、うつむき加減で肩の筋肉を緩めきったようなだらんとし姿でプラットホームに向かった。 地に針金ハンガー男の影が長く伸びていた。

 

白羽を認めると「お帰りなさい」と桔梗は言った。 

 

桔梗は針金ハンガー男に憑いていたかのような、やや陰湿な雰囲気がなんとなく消えたように感じた。

 

「間もなくジョバンニ号は発車しますので席にお着き下さい。白羽様」と桔梗は続けた…

  

◇◇◇◇◇ 

 

村田紗耶香著・コンビニ人間』を読んで、何か書いてみたいと思ったので書いてみましたけど、未消化になりものすごく不完全燃焼してしまいました。機会があればもう少し消化させるべく書き換えるか、あるいは書き足してみたいと思っています。

 

実際のコンビニプラネットは宇宙貿易惑星としてもっと賑やかで活気に満ちた場所として再登場する可能性のある場所です。

 

こんなコンビニ惑星が銀河鉄道の行く先々にあるってことも考量して、何かお話を作っていただける時の参考にしていただけたらと思います。

 

銀河鉄道のジョバンニ号の停車するステーションはご自分独自の世界感を構築をすることが出来ますので、既成概念に縛られることなく自由な発想でなんらかの感想文的なことや物語の舞台設定が出来ます。

 

例えば大ヒットしたETや未知との遭遇のその後やその前なんて物語も可能ですし、過去時代にも行けますので時代劇物語も可能です。

 

こんな設定ですが、Blogger の皆様何か書いてみませんか。お書きになりましたら連絡くだされば順番に『HB 銀河鉄道の夜 総目次』に収録させていただきます。 

 


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銀河鉄道の夜 総目次